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スタークロス学園在住デュラ=ホームズ、ロベルト・ルチアーノ、アーサー=バートラムPLのブログ。まったり絵とかうpする場所。
24 . August
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21 . April
文:紅大先生




青い月が浮かんだ夜だった。
小さな星々の輝く真黒の空に、ぽっかりと浮かんだ月は青く、丸く。
燦然たる輝きによって、冴えた光で地上を照らす。その明るさは何処か御伽噺染みた違和感を生じさせていた。
違和感…月光に照らされて辺りが青白く浮かび上がった様に人間味が感じられないからだろうか。
まるで一呼吸もない世界、時の止まった世界にでも落ちてきたような、そんな錯覚。

ざぁ——…ん…

寄せては帰る、波の音。
きっと今はどこにも雨雲なんて海を荒立たせる存在なのないのであろう、静かで、穏やかで…雄大な海が一面に広がるこの光景。
右も、左も、前も、後ろも大海原。
つまりは船の上に他ならない。
選りすぐりの大木から作られたのであろうか、質のよい木材の甲板は肌触りもよく、直接腰を落ち着けても、手を突いても嫌な感触はしない。
よくよく見てみればそこかしこに傷もあるのだけれど、丁寧に磨かれたそれはもはや船の味であるが如くに馴染んでいて。
掃除だの手入れも行き届いているのだろう…其れはあらゆる感触から分かるのだが、この船の持ち主のことを思い浮かべるとどうにも腑に落ちない…等と微かに笑んだ青年が一人。

細い蜂蜜色の髪には潮風の傷みもなく、白磁のように白く皇かな肌にも日焼けの痕はない。
瞳は眼下の海を思わせる艶やかなターコイズブルーであるものの、その外見の何れもが船の上で幾日も過ごすような見た目とは反している…そんな容姿を持つ青年、ロベルト。
彼が今現在乗船してる船に乗り合わせたのは本当に偶然だとか、奇跡だとかという言葉に他ならず。
嵐の日の大津波に巻き込まれ、海を漂流していたところを拾われたという…なかなか出来ない経験を持って、この時を過しているのだ。

差し込む月明かりは寒々しい程に青く。耳に届く波の音は、どこまでも静かで優しく。
いっそ時間の流れなんて本当に止めてしまいそうな———止めて…しまえたら、と。



「ロベルト?」

「………ハロルド。」



何処か退廃的な感情に囚われてぼんやりと波を眺めていた視界に、ふ、と黒い影が掛かった。
見上げてみればそこにあったのは、本来の月の輝きを思わせる灰汁の強い金色の瞳と、無造作に結われて垂れ落ちた黒髪。
こちらの髪はロベルトのものとは違い、幾年月も海風に曝されて来たのだろう、少しぱさついて、それでも夜闇のように純粋な黒で。
斯様にして声を掛けた男の名は呼んだ通り、ハロルド。
こうして波に揺られている傷多き中型船舶…端的に言って海賊船、の持ち主であり、無論賞金も既に掛けられた海賊当人であった。
粗野な荒くれもの、とのイメージも強い海賊が漂流する命を助けたというだけでも驚きだが、もっと驚くことに。



「眠れないのか?」



隣に腰を下ろし、座り込んだ青年の肩を寝巻き代わりの薄衣ごとぎゅ、と抱き寄せる。
月の照る深夜に一人で甲板に座り込んだ彼を心配して、寄り添ってくれるような…そんな一面すら持っていて。
更には———言葉もなく見上げたコバルトブルーの瞳に優しく笑み、瞼に口付けを落とす様な…そんな関係になっていた。
抱き寄せる腕は海を渡ってきた者として物怖じしない力強さに満ちていて、暖かく。
普段敵船や船員たちに見せるのとは違った…唯一の表情を見せてくれる。
この瞬間がひどく、ひどく幸福で、胸が満たされて。
其れゆえに時を止める、などという馬鹿らしい妄想まで浮かんでしまうのだけれど。



———ロベルトは…ただの漂流者ではなかった。
誰に明かしたこともないが、流されたのは己が身だけではない。
金糸の刺繍の入った特別な軍服——海軍服も共に流れて失ってしまっていた。
もっとも、漂流時もしっかりと着込んでいたなら、海賊であるこの男に助けられはしなかっただろうし、服自体にも未練はない。
ただ…本来は敵である海賊船、陸地に着いた時にはまとめて捕縛をと企み身分を隠していたというのに。
何時しか海賊たちの底抜けの明るさに、強い仲間意識に、そして何よりハロルドの不器用な優しさと愛情に包まれて、彼らを敵として見る事など不可能になってしまったのだ。
己にだけ見せてくれる仄かな笑みが愛おしい、抱き寄せてくれる力強い腕が離せない。
自分でも気付かないうちに強く、強く惹かれて、心の中に渦巻くのは最早彼と幸せに航海を…という海軍としては許されざる願いだった。

地上に付いてしまえば必ずどこの国にでも海軍の司令部はある。
顔を知る人物だっているはずだ。
ましてや大津波に浚われて行方不明になったのだから、そこらじゅうに探し人として名前は愚か経歴まで載った資料がばら撒かれている可能性だって否めない。
其れが知れた、ならば。
きっと海賊であるハロルドは海軍である己を遠ざけるのだろう。
嘘をついて近づこうとした、とこの心さえ疑われるかもしれない。
そう思えばどうにも悲しく、苦しく。
しかし、黙っていてもいつかは港についてしまう。
補給を行わずに永遠に航海できる船などないのだから。
想いと浅ましい策略と、純粋すぎる望みが交錯して一歩も動けなくなる、まさしく今其れを…実感してしまって。



「…どうして、泣いてんだよ。」



困ったような苦笑と、声が落ちてきたのに気付いて、ハッ、と顔を上げれば伝い落ちる雫が一滴。
見上げた彼を映す視界も滲んで、ぼやけて。
言われた通り、溢れんばかりの涙を溜めて…泣いて、いた。
まだ別れが来たわけでもなくて、何を言われたのでもなくて。
時の流れを塞き止めてしまいたいほどに幸福なはずなのに。
先を考えると胸が痛くて仕方がなくて、いくら目を擦っても、鼻を啜っても涙が止まる気配はない。
涙腺がまさか壊れてしまったのではないか、と思ってしまうぐらい止め方が分からなくて、ぼろぼろとみっともなく涙を零していれば、やっぱり其れを拭ってくれる指は暖かくて、優しくて…。



こんなに。
こんなに、優しいから…嘘をついてはいけないと、そう思ったのかもしれない———



「俺…本当はただの釣り人なんかじゃない、海軍、なんだよ…」



黙っているのも、辛く、て。
懺悔でもするつもりで漏れ出した声は涙声に震えて見っとも無いほどに聞き取りづらい。
言葉をつむぐ間中、顔を見ることが出来なかった。
どんなに辛辣な顔をされているか、想像するだけで背筋が冷たくなって喪失の恐怖に立ち尽くしてしまいそうだったから。

苦しいから打ち明けたのに、胸の痛みが引いてくれることはなかった。
不意に通り過ぎた一陣の海風が冷たく髪を浚って、寒さを導いて。
ともすれば二人に開いてしまった心の距離を体現されたかのようだとすら思って顔を上げられず。
俯いたままであったから、溢れた涙が伝う行き場を失って、ぱたぱたと甲板に落ちていく。
ただ今直ぐにこの甲板を放り出されなかったのだけが救いだ、と自身の手の甲で目尻を擦れば。
…ふわり、と頬に掌が寄せられた。
ロベルト自身のものは甲板に付けられたのと、涙を拭ったのとで塞がっている。つまり。
其れはハロルドの掌、で。

顔を上げることを促しているのだろう、そっと力が篭められたのでゆっくりと重たい気持ちも奮い立たせて恐る恐る、その顔を見据えた。
痛い程に冷たい視線で射抜かれたら…もう立ち直ることも出来ないかもしれない。
加速する恐怖と焦燥感にまた一筋涙が伝い落ちて、しかしついに視線は重なり。



「最初から、知ってたよ。」



———不意に、囁かれた、言葉。
言葉の意味を理解することが一瞬出来なくて、大きく瞳を開いたせいで、溜まっていた涙がまた一滴零れ落ちた。
其れを見たハロルドは…また。
さっきと同じように優しく、ゆっくりと親指で眦を拭って、穏やかに金色の瞳を細める。



「知ってたよ。お前っていう海軍は海賊の間ではちょっとした有名人なんだぞ?俺が知らないわけないだろう。…知ってて助けたんだ。」



ゆっくりと…大地に水が浸み込むようにたっぷりの時間をかけて、言葉の意味というものが脳に、心に浸透していく。
予想していた冷たい色などどこにもありはしない。
見上げた表情は相も変わらずロベルトにしか見せない微笑であるし、頬を撫でる掌も優しい。
海軍だと知っていて、助けたと。
柔らかく葛藤を払拭してくれたと共に、疑問も浮かぶのだけれど、不思議そうな表情でも浮かべたりしたのだろうか。
声に出す前に小さな笑み声と共に、その応えは紡がれる。



「知ってて…愛してん、だよ」



愛。



じわりと胸に熱が湧き上がる。
言葉の持つ意味以上の何かが篭っているような感覚。
らしくもなく照れてでもいるのか少しだけ視線を外したりなんてしているが、依然頬には手が添えられているし、肩は抱き寄せられているし。
愛した…と、いくら反芻してみてもマイナスの意味など持ち合わせてはいない。
どこまでも、どこまでも優しくて愛おしい言葉。
欲しかった…言葉。
暖かくなった胸は、次第にその熱の範囲を伸ばし、掌から指先へ、頬から耳へ、移し終えてはほんのりと桜色を差す。
怖くて身体の奥底から搾り出されるようであった涙は、暖かい心…所謂恋心というものが溶け出したかのように…やはり留まることを知らなくて。

小さなことはまだまだ分からない。
どうして敵である己を救い上げたのか、愛したのか。
それとも漂流の前から少しぐらい好意でも持ってくれていたのか…会った記憶などなかったが、海軍という性質上勝手に知られている場合もある。
その上に、少しも葛藤しなかったとは思えない。
自分が納得したとしても海賊団を束ねるハロルドには同じような船員が幾人もいるのだ。
敵を助ける、ましてや傍に置くなど生半可な決意で決められたものではあるまい。


———それでも。
愛しているのだと言ってくれた。涙を拭って笑ってくれた。
だからきっと…もう、笑えるから。











真っ青な月が照る寒々しい夜。
静かな漣も月光を反射して青白く、何処か御伽噺染みた空間の中。
寒々しい見目ではあるけれど…良いのだと、思う。
青は素晴らしい色だ。
愛する海の色、空の色、笑えるようになった彼の瞳の色。
そして…ブライダルのサムシングブルーに由来されるように…誓いの色、だから。












———俺も…どうしようもないくらいあんたを愛してる——————………








kaizoku.jpg










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うおおありがとうございました!!!!感想は貰った瞬間言ったけど(((
立場の違いってあついよね……
ところで挿絵ってこれでいいんですか^^←←←
海とか船とか努力したんですが無理でしたごめんなさい…いつか描けるようになるといいな…

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御馳走様ですぅ!
ほあああああああの時の萌え談義がこのような素晴らしい形になるとは!
紅大先生、並びにさく大先生ありがとうございます!
べーさんの涙が綺麗すぎて、ハロさんの掌が優し過ぎて胸が熱いですぅ。
これはこの後此の事が司令部に露見し、大航海時代屈指の決戦に発展する件で間違いないですか!(((
たつみさん / 2011/04/21(Thu) / 編集
Re:御馳走様ですぅ!
紅大先生が仕事速かったので感動してつい(((
その展開は勿論司令部にいるAニー提督がうっかり途中で海賊に捕まって的なおいしい展開があるんですよねもちろんですよね、ね!楽しみにしてます!((
【2011/04/24 02:55】
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